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コラム:理不尽なトランプ円高に備えよ

唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

[東京 23日]
市場参加者にとって、具体的な政策内容がベールに包まれたトランプ米大統領はまだ得体(えたい)の知れぬ存在である。だが、為替市場参加者にとって最も重要な通貨・通商政策に限って言えば、新大統領の姿勢は明白だ。ここまで強烈な保護主義志向をあらわにしてきた同氏が自国通貨高をいつまでも放置するのは誰が見ても不自然である。

19日に上院で行われた指名承認公聴会でムニューチン次期財務長官候補が長期的にドル高を維持することが重要と述べた一方、短期的な評価について言明を避けたのはドル安志向の強い大統領への配慮だったのだろう。上司が通貨安を好む以上、部下の発言もこれに制約を受けるのは致し方ない。

市場ではいったん消化された格好となっているが、1月半ばに米紙に掲載されたトランプ大統領へのインタビュー記事は、やはり今後の為替相場を占う上で多くの示唆に富むものとして留意しておく必要がある。

トランプ大統領は「もちろん、彼ら(中国)は為替操作国である」との認識を明示し、「我々の企業は通貨が強いがために、彼らの企業と競争できない。(ドル高に)してやられている」とまで述べた。ここまで言い放つ人物が大統領である以上、ドル買いで攻め続けるのは相当勇気が要る。

また、このインタビューの中では通貨・通商政策をめぐるトランプ大統領の直情的な危うさも垣間見えた。トランプ大統領は「彼らは人民元が下がっていると言うが、それは下がっているのではない。彼らが意図的にそうしているのだ」と揶揄している。

だが、これは完全に誤認だ。少なくとも2015年夏以降の中国は意図的に通貨安誘導を行っているわけではなく、むしろその下落スピードの抑制に躍起になっている。過去2年半で約1兆ドルも減少した外貨準備はその証左であり、そうした通貨政策の結果として中国経済が軟着陸できるか否かが真の注目点だ。

つまり、中国はどちらかと言えば通貨高方向の調整に腐心しており、トランプ大統領からすれば評価に値する政策運営とさえ言えそうなものだが、正しい現状理解がされないまま批判が展開されている。

<新大統領が名指しする「悪の枢軸」4通貨>

こうした「通貨・通商政策をめぐる直情的な危うさ」の矛先は中国以外にも向かっている。これまでの言動を見る限り、トランプ大統領の通貨・通商政策の評価軸は「対米貿易黒字の大きさ」だ。今後は米国に対し多くの黒字を稼ぐ国が「悪」のレッテルを貼られそうであり、その枢軸のごとく名指しされているのが黒字額の大きい順に中国、日本、メキシコである。

もちろん、貿易黒字は収益ではないし、貿易赤字も損失ではない。ゆえに赤字だから悪いという話では全くない。だが、そもそも理屈が通じる相手ではないのは周知の通りであり、そうした正論はここでは脇に置く。

なお、対米貿易黒字の大きさが「悪」だと言うのならば、中国の次にはドイツが入るべきだ。トランプ大統領とメルケル独首相の相性の悪さを踏まえれば、近い将来、ドイツの対米貿易黒字の大きさをめぐる対立が注目される局面は来るだろう。

すでにトランプ大統領は「欧州連合(EU)はドイツのための乗り物」などと反EUスタンスを隠しておらず、ドイツと友好的な関係を築く姿は想像し難い。また、ユーロ圏という単位で見れば、対米貿易黒字はドイツの倍近くまで膨れ上がるため、米中貿易摩擦と同じくらい、欧米貿易摩擦はトランプ政権下で有力なテーマとなりそうだ。

ところで、米財務省の為替政策報告書では、1)対米貿易黒字が年200億ドル超、2)経常黒字が名目国内総生産(GDP)比3%超、3)年間の純外貨購入(外貨買い・自国通貨売り介入)が名目GDP比2%超、という3項目の判断基準が設けられ、2項目抵触で監視リスト、3項目抵触で為替操作国という立て付けになっている。

だが、トランプ大統領の関心はもっぱら1番目であるため、この在り方も少し変わってくるのかもしれない。例えば現在、日本とおおむね同額の対米貿易黒字を稼ぐメキシコは新たに監視リスト(あるいは、それに類する措置)の対象になってくる可能性がある。

また、中国は昨年10月時点で1番目のみしか抵触しておらず、監視リストから除外される可能性が指摘されていたが、その圧倒的な対米貿易黒字の大きさやこれに対するトランプ大統領の言動を見る限り、やはり監視リストに居残るだろう。

そもそも為替操作国かどうかが争点になっている状況で中国に対する通貨政策の手綱が緩むことは考えにくい。いずれにせよ、今年4月公表の為替政策報告書は例年に増して重要な材料になる。

<円は「優等生」だからこそ安心できない>

普通に考えれば、トランプ政権の通商政策において目の敵にされそうな中国、ドイツ、日本、メキシコの通貨は対ドルで下落しにくい通貨となる。

ちなみに、ドルの名目実効為替相場を見た場合、最も大きなウエートを占めるのが中国(21.7%)で、これにユーロ圏(16.6%)、カナダ(12.9%)、メキシコ(12.5%)、そして少し離れて日本(8.0%)が続く。つまり、「悪の枢軸」のごとく名指しされた(もしくはされそうな)国がドルの実効相場において強い影響を持つのである。

2014年1月以降の約2年半でドルの名目実効相場は22.2%上昇しているが、これに対する寄与度が最も大きいのがメキシコペソの4.6%ポイントであり、次にユーロの3.8%ポイント、人民元の2.7%ポイントが続く。この3通貨だけで過去2年半のドル高の半分を説明できる。

トランプ大統領の経済政策(トランプノミクス)をかつてのレーガン大統領の経済政策(レーガノミクス)と重ね合わせ、その結末として第2次プラザ合意的な動きを予見する向きは少なくないが、その場合、標的となり得る通貨はユーロや円だけではなく、メキシコペソや人民元を意図的に巻き込んだ枠組みになるだろうし、そうならなければ意味がない。

他方、円は、前述した通り、ドルの名目実効相場に占める割合は比較的小さく、ドル高への寄与という意味でも他の3通貨とは比較にならないほど小さい(上述した例ではわずか0.6%ポイントだ)。正直、これらと比較されるのは腑(ふ)に落ちない。

しかし、繰り返しになるが、トランプ大統領に正論が通用する雰囲気はない。ドル相場における円の影響力が微小なものであるとしても、「対米黒字は許せないから、円高」という単純な論法でドル円相場が押し下げられる展開は十分考えられる。

また、名指しされた国の通貨の中で円はそもそも優等生であり、円高圧力も高まりやすい。苛烈な資本流出に悩む人民元やトランプノミクスによって実体経済の勢いが削がれているメキシコペソはファンダメンタルズに照らせば通貨安になる道理がある。ユーロに関しても、世界最大の経常黒字が支えになりそうとはいえ、2017年は慢性的に政治リスクが重しとならざるを得まい。

これに対し、政治リスクが低く、実体経済は堅調、大きな経常黒字を稼ぎ、世界最大の対外純資産を保持し、低めの物価水準を維持している円の磐石さは際立つ。名指しされる4通貨の中で対米貿易黒字が特に大きいわけでもなく、実効相場におけるウエートも最小なのだが、そうした諸要因に鑑みれば、トランプノミクスの下で「理不尽な円高」が盛り上がる展開にはやはり警戒が必要と考えられる。

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17年のドル円のキー 日米の金融政策読む

http://style.nikkei.com/article/DGXMZO11876700Z10C17A1000000?channel=DF280120166593&n_cid=TPRN0016

加藤出 東短リサーチ社長チーフエコノミスト

注目のトランプ米新大統領の就任演説を受けた米金融市場の反応は限定的だった。しかし、それは経済政策への具体的言及がなかったからであって、内容が穏当だったわけではない。彼はワシントンの既存の政治を激烈な口調で攻撃した。

「この国の忘れられた人々」が受けてきた苦難を、トランプ氏は「アメリカの大虐殺」と呼び、それをここで今終わらせると宣言した。そういった過激な言葉遣いは過去の大統領の演説には見られなかったと米主要メディアは報じていた。新大統領の動向は警戒感を持って見ていく必要がある。

大統領就任直前、トランプ氏はドル高をけん制した。しかし、彼に財務長官に指名されたムニューチン氏は「強いドル政策」に変わりはないと発言していた。一時期より縮小したとはいえ、米国は世界最大の経常赤字を抱える。先行きはドル高けん制発言が政権幹部から増えてくる恐れがあるが、当面は米国債などの安定的なファイナンスを考慮して、バランスをとった為替政策でいくのだろう。

これからもトランプ氏および政権の経済担当幹部の発言に市場は過敏に反応すると思う。しかし、今年のドル円レートに基本的に影響を及ぼすのは米国と日本の金融政策の動向だろう。なぜなら大統領選後のドル高・円安は(1)トランプ氏の財政政策→(2)米インフレ率上昇→(3)FRB利上げ加速→(4)日米金利差拡大――という連想が働いての流れだったが、今後はトランプ氏の要因だけではなく、米国経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)や米連邦準備理事会(FRB)の金融政策の影響を受けると考えるからだ。

ここではFRBと日銀の政策の当面の注目ポイントを整理してみよう。まずFRBだが、今年は大きく2つのチェックポイントがある。1つ目は、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利(短期金利)の誘導目標の引き上げ回数だ。

■FRBの資産縮小開始は年内か

昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバー(15人のFRB幹部)による政策金利の予測(ドットチャート)では、2017年は3回の利上げとなっていた。しかし、イエレンFRB議長は市場にそれを織り込ませたくなかったらしく、記者会見で盛んに「(前回に比べ)非常に小さな変更にすぎない」とアピールしていた。

イエレン議長はその時よりはややタカ派方向にシフトしてきたものの、1月19日の講演では緩やかな金融引き締めペースが適切だと改めて強調していた。実際のところ、トランプ政権の財政刺激策がどの程度の規模になるのか不透明だし、お金が回り始めるのは来年以降が中心だ。また、減税の規模や対象も不透明で具体的にどうなるのか確定しないと、企業は設備投資に動きづらい。

賃金上昇ペースはトレンドとしては徐々に速くなっていくと考えられる。ただし、人手不足感が強まると金融危機後に労働市場から退出した人々が戻ってくるため、しばらくは上昇ペースは緩やかだろう。また、昨年11月以降のドル高は、企業収益とインフレ率に軽いブレーキをかける可能性がある。

そういった要因を全体として考慮すると、筆者はFRBの今年の利上げ回数は2回程度と予想する。

2つ目は、FRBがその資産規模を縮小し始めるタイミングだ。QE3(量的緩和策第3弾)を14年10月に終了した後も、FRBは長期国債とMBS(住宅ローン担保証券)の保有額が減らないように、満期が来た分と同額を購入し続けている(これは「再投資」と呼ばれている)。つまり、FRBは自身のバランスシートの正常化にはまだ一切手をつけていない状況にある。

14年9月にFOMCが決定した出口政策の手順においては、FF金利をある程度引き上げたら、長期国債やMBSの再投資の減額を始めるとされていた。それを開始すると、長期金利は上昇しやすくなり、ドル高圧力が発生する。

15年6月にダドリー・ニューヨーク連銀総裁は「FF金利が何%になったら、再投資の減額を始めるのか?」との質問に「1%か、1.5%か、分からないが、まだ決めていない」と答えた。その翌々週にイエレンFRB議長は、「ダドリー氏はああいったが、FOMCは何も決めていない」と述べた。実際、再投資の減額開始のタイミングに関して合意はまだ何もないのだと思われる。

ただし、昨年11月のFOMCの議論では、再投資の減額で長期金利を上昇させてしまうと、短期金利の引き上げが制約を受けるとの考えが示されていた。タカ派の地区連銀総裁は再投資減額の議論を早く始めるべきと騒ぎ始めているが、イエレンFRB議長はもうしばらくはFF金利の引き上げを優先させると思われる。しかし、共和党はFRBのバランスシートの正常化を望んでおり、今後トランプ政権が任命するFRB理事にはそういった考えに共鳴する人物が選ばれる可能性がある。このため、FRBは早ければ夏ごろに減額開始を予告し、数カ月後にそれが開始されるかもしれない。

■緩やかなドル高・円安が続く

一方、日銀はマイナス金利政策を維持(10年金利誘導目標を0%近辺に)したまま政策変更には言及せず、当面はじっとしているだろう。黒田日銀総裁は金融引き締め方向の話は当面におわさないと思われる。

米大統領選挙後(16年11月7日から17年1月17日まで)の名目実効為替レート(国際決済銀行作成)の騰落率を見ると、全61カ国中、円は下から3位のマイナス6.5%だった。一方、ユーロは下から9位のマイナス1.3%だった。円の方が下落しているのは、欧州中央銀行(ECB)は昨年12月に量的緩和策の縮小を決定したが、日銀はそういう素振りを一切見せないからだといえる。そのため、筆者の今年のドル円レートの予想は、昨年末のような急激な円安は期待できないものの、基本的に緩やかな円安が続くというのがメインシナリオだ。

注目されるのは、今年秋以降の日銀の10年金利誘導目標に関する判断である。円安傾向が緩やかながらも続き、原油価格も現状程度の水準が続くなら、生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)は年内に1%近辺に達する可能性がある。市場では、「インフレ率が上がってきているのに、10年金利がゼロ%近辺というのは、あまりに低すぎるのではないか」という声が高まるだろう。

■一時的な円高リスクも

個人的な意見を述べると筆者は、海外から日本経済に「追い風」が吹いている間に日銀は金利水準の少々の引き上げを実施しておくほうがよいと考えている。それをやるとユーロのように為替レートは対ドルで大きくは下落しなくなる。しかし、金利誘導目標の引き上げを少々でも実施しておけば、先行き、海外から「逆風」が吹いてきたときに切ることができる「追加緩和のカード」を手に入れることができる。ECBの12月理事会議事要旨を見ると、量的緩和の毎月の証券購入額を今年4月から600億ユーロに縮小する理由のひとつは、「もし経済や金融市場の見通しが悪化したら買い入れ規模を800億ユーロへ戻すことができる」と説明されていた。

ECBは「トランプラリーでユーロ高になりにくい環境のうちに減額をやってしまおう」と考えたのだろう。柔軟かつしたたかな戦略といえる。日銀はECBのそういった姿勢を見習うべきと思われる。しかし、黒田東彦日銀総裁は円安方向の流れを重視して10年金利誘導目標を引き上げる時期をできれば遅らせたいだろう。コアCPIが今後上昇していくとしても、日銀が目指している「2%を安定的に上回る状態」になる時期はまだ全く見えてこないからだ。

ただし、もしFRBの再投資減額が前述のように年内に始まるようなことがあると、米長期金利の上昇が日本に波及して10年金利をゼロ%近辺に維持することが容易ではなくなってくる。その場合、日銀はそれを言い訳にしつつ、年内に10年金利誘導目標を引き上げる可能性が出てくる。

そうした状況では一時的に円高圧力がかかる可能性があるが、FRBのFF金利引き上げとバランスシート縮小が進めばそれは和らぐため、FRBの同政策の動向に関心を向けていく必要がある。

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来週のドル/円は神経質、日米中銀と米政権動向にらみ

[東京 27日 ロイター]
来週の外為市場でドル/円は、神経質な展開が続くとみられる。日米の中銀イベントや、米国の重要指標の発表が予定されており、日米の景況感や金融政策の格差が意識されて底堅さが見込まれる一方、トランプ米大統領の保護主義姿勢への警戒感が重しになりやすい。

予想レンジはドル/円が113.00―116.00円、ユーロ/ドルが1.0550―1.0850ドル。

トランプ政権の政策を巡って、財政出動・減税による景気押し上げへの期待感と、保護主義的な側面への警戒感が交錯し、ドル/円が振らされる展開が続いた。

もっとも、日銀の金融政策決定会合(30─31日)と米連邦公開市場委員会(FOMC、1月31日─2月1日)が近づくことで「日米の景況感や金融政策の方向性の違いが、相場の意識に戻ってくるのではないか」(外為どっとコム総研の調査部長、神田卓也氏)とみられている。

このところの米指標は良好な数字が続き、FRB高官らのタカ派寄りの発言も目立っている。FOMC声明では「利上げに前向きな内容となれば、ドル買いが促されそうだ」(神田氏)という。

米国では、10─12月GDP速報値(27日)、PCEコアデフレータ(30日)、ADP全米雇用報告(1日)、ISM製造業指数(1日)、雇用統計(3日)など、重要指標が相次いで発表される予定だ。

これらの指標が良好で米金利が上昇すればドル/円は底堅いとみられる一方、米国サイドからのドル高けん制への警戒感も根強く「上げ幅は限られそうだ」(国内金融機関)という。

目先のドル/円はレンジ入りしたとの見方が多く、112円半ば─115円半ばが軸になるとみられている。

日本サイドでは、国債の中期ゾーン買い入れ見送りがあった日銀の真意について、金融政策決定会合後の会見で黒田東彦総裁がどのように説明するか関心を集める。市場ではテーパリングの思惑がくすぶるが、まだ距離があるとの受け止めが広がれば「ドル/円の重しが和らぎ得る」(別の国内金融機関)という。

日本ではこのほか、鉱工業生産などの指標発表のほか、企業決算が本格化する。

ユーロとポンドは反発基調にあったが、ショートカバーの範囲内とされ「上昇モメンタムは長続きしそうにない」(同)とみられている。

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視点:トランプ円安は幻想、進む「米国の日本化」

青木大樹 UBS証券ウェルス・マネジメント本部 日本地域CIO兼チーフエコノミスト

[東京 21日]
トランプ米国新政権の経済政策には潜在成長率の向上を促すような具体策が乏しいため、リーマン・ショック以降進行している米国経済の「日本化」(高貯蓄・低生産性・高齢化)に歯止めがかかることは期待しにくいと、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミストの青木大樹氏は指摘する。

そのため金利上昇は抑制され、ドル安方向にむしろ振れる可能性が高いと読む。ドル円レートについては、6月末110円、12月末105円と予想する。

同氏の見解は以下の通り。

<米家計・企業マインドも保守化>

当社では、11月の米大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏の勝利後、従来の市場見通しを大幅に見直すべきか否か議論してきたが、最終的には現時点でその必要はないとの結論に達した。その論拠を端的に整理すれば、1)トランプ大統領でも米国経済の日本化を容易には食い止められない、2)ゆえに長期金利の上昇ペースは抑制される、というものだ。

ここで言う日本化とはすなわち、貯蓄率の上昇、生産性の伸び悩み、高齢化の進行を背景に、低成長・低インフレ(そして潜在成長率の低下傾向)が続くことである。あまり知られていないが、米国も高齢化の進行などを受け、2010―15年近辺に生産年齢人口比率(15―64歳人口が総人口に占める割合)がピークを迎え、減少局面に入っている。今後、トランプ大統領が移民コントロールを強化するならば、こうした傾向に拍車がかかる可能性がある。

また、民間部門全体の貯蓄率(対国内総生産)にしてもここ数年で、1%台から3%台へと上昇している。リーマン・ショック直後の11%超の水準に比べれば、過剰貯蓄体質はだいぶ解消されたが、かつて貯蓄率がマイナスのときもあったことを考えれば、米国の家計・企業のマインドはかなり保守化したと言えよう。家計は可処分所得の拡大を貯蓄に回してしまっているし、企業も自社株買いや配当にばかり資金を割り当て、将来に向けた設備投資に積極的になっていないことが読み取れる。

さらに、労働生産性の伸びも、過去の景気回復局面と比べ、かなり低い状態が続いている。インターネットを活用したサービス分野でイノベーションが起こっているのは事実だが、産業全体の生産性向上につながることで低成長脱却の道筋が見えてきたとは言えない状況だ。

<財政政策の限界露呈へ>

こうした経済環境下、大統領に就任したトランプ氏が掲げているのは、周知の通り、「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」であり、保護主義的・機会主義的な政策である。イノベーションによって経済を底上げする政策アイデアが示されているわけではなく、減税やインフラ投資など旧来型の景気刺激策が語られている。

拡張的な財政政策で企業や家計のマインドが一時的に大きく回復することはあっても、潜在成長率が高まらなければ、いずれ効果は剥落する(あるいは、アニマルスピリッツが刺激され、投資や消費の回復が持続し、生産性上昇すらもたらすのだろうか。その可能性はかなり低いように思える)。

また、財政拡大と言っても、均衡予算主義者の多い共和党議会との調整の難しさを考えれば、規模は当初期待より大きく縮小し、予算執行のタイミングもかなり遅くなる可能性がある。現段階で明らかになっている材料では、とても米国経済の日本化が食い止められるとは思えないのが実情だ。

このような前提に立つと、米国経済の回復はこれまで通り、緩やかなものとなり、2017年2.4%、18年2.5%の成長を見込んでいる。よって、米連邦準備理事会(FRB)による今年と来年の政策金利引き上げも年2回ずつにとどまるだろう。

このペースは、昨年12月に連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが示した見通しとも整合的だ。結果的に、長期金利の押し上げ効果は約50ベーシスポイント(bp)にとどまり、米10年債利回りも年内は引き続き2.5%近辺が天井となろう。

ただし、これは米国経済にとって決して悪いシナリオではない。期待先行の危うさは、アベノミクス下の日本が示してきたことだ。米国の場合、緩やかとはいえ、インフレ率(消費者物価)は食品とエネルギーを除いたコアベースで前年比2%を上回るなど回復しており、成長率も国際通貨基金(IMF)の予想では、今年、来年と主要7カ国(G7)内では最も高くなると見込まれている。

経済の日本化は先進国全体に共通する現象だが、米国は欧州諸国に比べて、ましてや日本よりも、はるかにましな状況にある。長期金利の上昇が抑制されれば、ドル高の進展にもブレーキがかかる。企業収益にとってもプラスに作用しよう。

要するに、潜在成長率を引き上げる「決め手」を欠く中で、無理な財政出動によって不均衡(バブル)を作り出し、数年後にその後処理に困るよりも、現在の巡航速度を維持した方が米国にとって持続可能な成長につながる最善のシナリオと言えるだろう。

<トランプ時代の投資戦略>

では、こうした状況を見越して、どのような投資戦略を取るべきなのか。まず先進国に関しては、ドル安で企業収益の拡大が見込める米国株に引き続き期待が持てるだろう。金利が急激に上がらないので、米国の物価連動債やシニアローンも狙い目だ。

また、米金利高・ドル高が進まないとすれば、新興国危機が引き起こされることもない。よって、新興国(中国・インド・ブラジルなど)の株式も、一時的な下落局面では、押し目買いの対象となり得る。むろん、新興国とひとくくりで言っても経済ファンダメンタルズや政治情勢によって千差万別だが、世界の成長センターが先進国から新興国へとシフトしていく流れは、トランプ政権下でも不変だと考える。

最後に、ドル円についてはどうか。前述した通り、米国側の要因は下落(ドル安)方向に働くが、実は日本側の要因でも下落(円高)方向に作用すると考えている。最大の根拠は、日銀が年内に量的緩和のテーパリング(段階的縮小)に乗り出す可能性が高いとみているためだ。

日銀の大量購入の影響で、国内金融機関(預金取扱機関)の国債保有率は年々下がり、金融取引の担保や規制対応のために最低限必要と試算される5%水準に近づきつつある。このままのペースで日銀が国債購入を続けていけば、金融機関の経営を揺さぶることになりかねない。現在「年80兆円増」の購入ペースは恐らく年内に70兆円台、来年は60兆円台へと減額されていくのではないか。

加えて、今後の物価上昇見通しを考えると、早晩、日銀は現在ゼロ%としている長期金利誘導目標を引き上げざるを得なくなる可能性も出てくる。すなわち、日米金融政策のダイバージェンス(かい離)は、さほど広がらない可能性が高い。

このように米金利、日本のマネタリーベースの伸び、加えて経常収支動向などに照らして考えると、現状のドル円レート(20日のニューヨーク市場では114―115円台)が割高であることが分かる。6月末には110円程度、年末には105円近辺へとドル安円高方向に動く可能性が高いとみる。日本株についても、円高による企業収益圧迫を考えれば、下落方向に圧力がかかりやすい。日本株は、選別投資を一段と進めるべき局面だろう。

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コラム:ドル高再開へ、不安は「ポスト真実」

山口曜一郎 三井住友銀行 ヘッド・オブ・リサーチ

[東京 16日]
昨年12月に、筆者は今年のドル円相場について、第1四半期に112円まで調整したあと、第4四半期には125円まで上昇するという見通しを立てた。現在は、まさにその調整の過程にある。相場はもうしばらく調整が続いたあと、反転上昇に向かうと見る。

そこで、改めて、今年のドル高円安見通しを支える要因とそれに対するリスクを考えてみたい。まず、ドル円の上昇見通しを支えるストーリーは以下のようなものだ。

1)米経済は財政政策なしでも2%前半の成長が可能

2)減税や財政支出による景気刺激が加われば、2%台後半を超える成長とインフレ上昇が見込まれる

3)米連邦準備理事会(FRB)が年3回の利上げを行う可能性がある一方、日銀はイールドカーブ・コントロールによる金融緩和を継続することから、日米金利差は一段と拡大。米国で財政刺激が実施されれば、金利差拡大の確度はより高まる

4)トランプ次期大統領による「米国第一主義」が強い米経済と強いドルを実現する

これに対するリスクを考えると、以下の5点が挙げられる。

1)楽観的な米成長見通しは期待先行であり不確実

2)期待先行でドル高、金利高が大きく進んでしまうことが、先行きの米経済にネガティブな影響を与える

3)財政政策がどの程度の規模となるか不透明

4)トランプ次期大統領は保護主義であり、国内企業と雇用を守るためにドル安政策を取る

5)欧州の政治イベントがリスクオフ要因となって円高が進む

確かにどれも一理ある。だからこそ今年のドル円見通しは上下に大きく分かれているのだ。よって、これらのリスクをどう評価するかが重要なポイントとなる。筆者は次のように考えている。

<足元の調整はかえって望ましい>

まず、トランプ政権はまだ始まってもおらず全ては期待にすぎないと言うには、最近の米経済指標の強さには目を見張るものがある。

景況感などのソフトデータが中心ではあるが、12月のISM製造業指数は54.7と2年ぶりの水準に跳ね上がり、12月のNFIB中小企業楽観指数は105.8と12年ぶりの水準まで急上昇。1月のミシガン大消費者信頼感指数も98.1と約13年ぶりのレベルでの推移が続いている。企業や家計の初期の行動やセンチメントは間違いなくポジティブに動いている。

また、期待先行で金融市場が動いているのはその通りであり、筆者はドル高と金利上昇があまりに先に進んでしまうことを心配していた。期待先行で通貨高と金利上昇が進み過ぎると経済活動に負の影響を及ぼし、年後半から来年にかけて財政政策が実行される前に経済活動が減速してしまう恐れがあったからだ。

しかし、足元では為替、金利ともに調整が入った。財政政策の中身が見えてくるまでしばらく間が空いてしまうことを一部の市場参加者が嫌気したためだが、これによって期待が実体を押しつぶしてしまう展開は避けられたと考える。2月下旬以降になると思われる予算教書演説と、その後の上下院による予算案作成あたりから、財政政策や税制改革に関する具体的な絵が見えてくるだろう。

その財政政策に関する規模の不透明性が、具体化した際に失望を招くという見方もあるが、市場参加者が100%の楽観を織り込んでいるようには見えない。ゼロ回答であれば当然失望だが、インフラ投資には不透明性があるものの、所得税や法人税の減税は実施される公算が大きく、一定の景気刺激効果は期待できると考える。

大統領案と下院共和党案の差異などを指摘する声もあるが、大統領選後にトランプ氏と共和党のライアン下院議長が関係修復した意味は大きい。ライアン議長は今後のキーマンの1人となるだろう。

確かに、保護主義によるドル安政策への転換リスクには警戒が必要だ。ただし、現在のトランプ氏は、国内企業の国外進出けん制、海外進出企業に対する国内回帰圧力、中国やメキシコなどへの攻撃、といった手段を用いて保護主義的な行動を取っており、必ずしも為替レートに焦点を当ててはいない。大統領就任後にスタンスが変わってくる可能性は排除できないが、「強い米国」の実現にはある程度「強いドル」が必要と考えている側面もあり、経済にマイナスの影響が出てくるまで、為替については放置するのではないか。

FRBが発表するドル実質実効為替レートを見ると、足元の102.82は、直近2016年1月の高値を抜け、2003年以来の高い水準だが、過去の最低値が80.26、最高値が128.44であることを考えると、必ずしも今すぐ対処が必要というレベルではないだろう。

また、為替レートは水準とともにスピードも重要となる。2014年からのドル高局面では、一時前年比プラス14%までドルが上昇したが、足元では前年比プラス4%程度にとどまっている。この点においても年始に調整が入っているのは望ましい。年明けから一段のドル高が進むようだと、水準、スピードともに無視できない展開となるところだった。

むろん、欧州の政治イベントがリスクオフ要因となる可能性は排除できない。特に、フランス大統領選で極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首が勝利した場合、欧州は大混乱に陥り、グローバルな金融市場に大きな影響を与えることになるだろう。

ただし、それ以外のケースについては、政治的なショックがドル円に与える影響は永続的ではないと見る。政治イベントによる為替レートへのショックは短期間にとどまることが多く、また為替市場でユーロが大きく下落した場合、円と同様にドルも買われる可能性が高い。円独歩高が続く公算は大きくないだろう。

<事実に基づかない政治がもたらす危険>

なお、今回は深く触れないが、為替に限らず今後の市場・経済動向を読み解く上で、筆者が注視している論点が2つある。1つは米中関係であり、もう1つは「ポスト真実(post-truth)」の政治行動がもたらす危険性だ。中期的にはこれらがストーリーの構成要素として台頭してくると考える。

ポイントだけを簡単に述べると、前者は、通商担当に対中強硬派をそろえ、厳しい姿勢で臨むことにより米中で貿易摩擦が発生する。中国からの輸入規制や関税引き上げによって米国内の製造業と雇用を守ろうとした場合、国内のコスト増加要因となる。

この行き着く結果は企業収益の減少か、販売価格の引き上げか、IT化の促進による生産コスト削減であり、家計にとっては雇用削減や購買力の低下につながる恐れがある。加えて、中国側が報復措置を取って米経済に打撃を与えたり、中国の景気減速がグローバル経済にマイナスの影響を与えたりする可能性もあるだろう。

次に、ポスト真実の政治とは、真実のように感じられるが実は事実無根の主張に依拠した政治のことを指し、英エコノミスト誌などがしばしば懸念を示している。

ポスト真実の政治の下では、客観的な事実よりも感情的な主張が人々の判断基準となり、為政者が情報操作や扇動といった行動に走りやすくなる。そうなれば、真実がますます見えにくくなり、経済や社会の摩擦が高まり、将来的に政治経済に大きな混乱が生じる恐れがある。

むろん、景気が拡大している間は、恐らく問題は表面化しないと思われるが、トランプ次期米政権がこうした政治手法を取るならば、水面下で歪みが大きくなり、2018年以降のリスクとして台頭するシナリオには警戒が必要だ。

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ドル・円、2カ月ぶり安値から戻す-米景気期待でドル先高観則根強く

東京外国為替市場のドル・円相場は、トランプ米大統領やムニューチン次期米財務長官の発言を受けて約2カ月ぶりのドル安値を付けた後、徐々に値を戻す展開となっている。市場では、米国の景気期待からドルの先高観測も根強く残っている。

24日午前11時24分現在のドル・円相場は前日比0.1%高の1ドル=112円84銭。朝方には一時112円53銭と昨年11月30日以来のドル安・円高水準を付けた。その後は113円13銭まで戻す場面があった。

バンク・オブ・アメリカ外国為替本部の岩崎拓也営業本部長は、「ドル・円はムニューチン氏のドルについての発言に反応して下落したが、112円台ではそれなりに買いが集まっているようだ」と説明した。
 
ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)外国為替部の村田雅志通貨ストラテジストは、朝方のドル・円下落について、「トランプ米大統領やムニューチン次期米財務長官の発言が材料視されている。米政権メンバーの発言が材料視されやすく、敏感に反応している」と説明。もっとも、「112~115円のレンジ内での下落。長い目で見てドル高基調が終わったとは思わない。足元の米景気はしっかりしているのでドルが大きく売られるとは思っていない」とも語った。

トランプ米大統領は23日、企業幹部との朝食会で、雇用を米国外に移転する企業には「極めて大規模」な国境税を課す方針を示した。また環太平洋連携協定(TPP)離脱の大統領令に署名し、北米自由貿易協定(NAFTA)も再交渉すると宣言した。

ムニューチン次期米財務長官は、上院議員からの質問に書簡で回答し、過度に強いドルは短期的にマイナスの影響を与える可能性があるとの考えを示した。

米国では24日、議会予算局(CBO)が財政・経済見通しを公表する。経済指標では12月の中古住宅販売件数が発表される予定。ブルームバーグ予測調査によると、前月比1.8%減少が見込まれている。11月は0.7%増加だった。

三井住友銀行の山下えつ子チーフエコノミスト(ニューヨーク在勤)は、「来週になると米連邦公開市場委員会(FOMC)もあるし、少しずつ市場の視点もトランプオンリーといったところから分散していくと思う。経済指標やFOMCなどにもだんだん目が向いていくと思う」と述べた。

ポンド・ドル相場は同時刻現在、0.04%高の1ポンド=1.2540ドル前後。朝方には一時、昨年12月15日以来のポンド高値となる1.2545ドルを付ける場面があった。英最高裁判所は24日、欧州連合(EU)離脱プロセスを開始するリスボン条約50条の発動に議会の採決が必要かどうか判断を示す。

オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)マーケッツ本部外国為替・コモディティー営業部長の吉利重毅氏は、「議会の採決が必要との判断になれば、ポンドは一段のショートカバーで1.27ドル半ばまでの戻りが意識されるかもしれない」と見込んでいる。

一方、BBHの村田氏は、「議会承認が必要との見方からポンド買い。ドルが弱いことも背景にある」としながらも、「対ドルで1.25ドル台まで上昇しているが、ここからの上値余地はあまりないと思う」と分析。「今後も、議会やメイ首相発言を懸念して、ポンド売りが出るだろう。中長期的には1.20ドルを下回ってくるのではないか」と見込んでいる。

ユーロ・ドル相場は同時刻現在、0.02%安の1ユーロ=1.0763ドル前後で推移。朝方に一時1.0772ドルと昨年12月8日以来の水準までユーロ高・ドル安に振れた。

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今後は「トランプ円安」の逆回転も 円買いを生む3つの経路とは

http://style.nikkei.com/article/DGXMZO11783470X10C17A1PPE001?channel=DF280120166591

外国為替市場で昨年11月以降進んだ「トランプ円安」にブレーキがかかっている。一時は1ドル=118円台に下落していた円相場が上昇。17日には112円台まで買われた。外貨投資を手掛ける個人投資家も無関心ではいられない。何が起きているのか、今後円安が本格的に逆回転するならどんな場合か。

トランプ氏が米大統領選挙で勝った2016年11月上旬以降の円相場は主に2つの局面に分けられる。第1は円売りが急速に広がった12月中旬まで。円は1ドル=118円台後半へと17円も下落した。第2が12月中旬以降現時点まで。円売りの勢いが鈍り、115~117円台程度を中心にもみ合った。

(1)政策「影の部分」

何が円の動きに違いをもたらしたのか。大まかに言えば、市場参加者の関心がトランプ氏の経済政策(トランプノミクス)の「光の部分」に集まったか、「影の部分」に向かったかだ。第1局面では前者の巨額減税やインフラ投資が注目され、第2局面では後者の保護主義が関心を集めた。

この点をもう少し詳しく見ていく。まずトランプ円安が始まったきっかけから振り返ってみよう。それは16年11月9日の同氏の勝利演説だった。選挙中に口にした保護主義的な主張を封印したことが強い印象を与えた。人々の関心は減税、インフラ投資に向かい、強い景気刺激効果を生むとの見方が広がった。

米長期金利は急上昇。日米金利差が広がり、円安圧力が生まれた。勝利演説前に1ドル=101円台前半を付けた円は12月中旬に1ドル=118円台後半に下落した。上述の第1局面だ。

次に訪れた第2局面では日米金利差の拡大が止まり、円売りにブレーキがかかり始めた。保護貿易主義という「影の部分」が耳目を集め、減税などによる米景気刺激への期待が後退したからだ。

(2)保護主義台頭

保護主義への注目度が上がった一因は、次期政権の通商政策担当者に対中強硬派が起用されたこと。新設の国家通商会議のトップに起用されたピーター・ナバロ氏が代表格だ。米国にとって中国が脅威だと指摘してきた学者である。

選挙戦中に戻ったかのようにトランプ氏の保護主義的な発言も増えた。17年1月5日にはトヨタ自動車のメキシコでの工場新設について計画撤回を要求。同11日の記者会見でも「米国の通商交渉は大失敗」と強調し、中国や日本などとの貿易不均衡に言及した。減税などには触れなかった。

この記者会見を受けて円は113円台後半に上昇した。その後、英政府が欧州連合(EU)単一市場から退場する「強硬離脱路線」に向かうとの見方が市場のリスク回避ムードを強め、「安全通貨」の円を買う動きも広がった。トランプ氏が17日付米紙ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、対中国人民元でのドル高をけん制したこともドル売り材料となった。

問題は今後円買い圧力が本格的に強まる第3局面が訪れるかどうかだ。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)・通貨先物市場での投機筋の動きを見ても、円売り越しの規模が膨らんでいる。何かのきっかけで円の買い戻しが急増する可能性はある。

当面、英政府の動きに注意が必要だが、それ以外にも円高をもたらしうる経路はある。3つ挙げておこう。

第1はトランプノミクスの「光の部分」に対する関心や期待が一段と後退するケースだ。年末に向けドル高が進むと見る三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏も、減税の財源などを巡る議会との調整の行方には注意が必要だとする。その過程で減税規模の縮小観測が広がり、米長期金利が下がるかもしれない。「いったん110円を突破する円高もあって不思議はない」(植野氏)

第2は、米政権の保護主義的な姿勢がさらに強まり、円安けん制発言が飛び出す場合である。「米国の当面の標的は中国人民元。円に対するドル高がけん制される公算は大きくない」。日本の通貨当局内にはそんな声もあるが、みずほ証券の上野泰也氏は、いずれ対円でもドル高警戒感を示してくる可能性が十分あると見る。

注意すべきなのは、円安けん制発言が飛び出せば、日米金利差の動向にかかわらず円が買われる可能性もあること。「日米通商摩擦が激化した1990年代前半には、日米金利差が拡大しているなかで円高が進んだ」とJPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏は言う。

(3)新興国の変調

むろん、第1、第2のケースにならずに、再び米金利上昇・ドル高という展開になることもありうる。その場合、第3局面はドル高になり、円高は回避される。ただし、問題はその後の第4局面だ。高い米金利を背景に新興国から米国へのマネー逆流が進み、新興国経済が変調をきたすリスクはある。新興国経済の問題がマーケットの注目を集めリスク回避ムードが強まれば、「安全通貨」の円が買われやすくなる。

果たしてトランプ円安の本格的な逆回転は起きるか。目先それを占う重要な材料となるのがトランプ氏の大統領就任演説(20日)だ。今後、財務長官など経済閣僚に指名された人たちの承認を巡る公聴会もある。

昨年11月9日のトランプ氏の勝利演説は円売りを招き、逆に今年1月11日の記者会見は円買い圧力を生んだ。就任演説や経済閣僚の公聴会がもたらすのは円安か、それとも円高か。

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ドル/円は一進一退、突発的な要人発言に警戒=今週の外為市場

[東京 23日 ロイター]
今週の外為市場で、ドル/円は一進一退が予想される。トランプ氏の米大統領就任演説には新材料は見当たらず、大きな動きにはつながらなかった。財政政策への期待が維持されたことで下値リスクは後退した一方、具体策が提示されない中、高値圏で利益確定や戻り売りに押される展開も予想される。

このところ米連邦準備理事会(FRB)高官や米政権関係者のコメントで相場が変動するケースが多く、突発的な要人発言に警戒が必要との声も出ている。

予想レンジはドル/円が113.00―116.00円、ユーロ/ドルが1.0500―1.0800ドル。

トランプ氏は20日の大統領就任演説で「通商、税制、移民、外交に関するすべての決定は、米国の労働者と家庭に恩恵を与えるものにする」と言明。米国製品を買い、米国民を雇うという2つのルールが政策の原則になると、あらためて「米国第一主義」の推進を表明した。

市場では「選挙戦の時の主張とほぼ同じ内容でそれほど新味はない」(外為アナリスト)との指摘が出ていた。ドル/円は、調整的なドル売りは出ているものの、114円前半で下げ渋っている。

一方、今後の一般教書演説や予算教書演説を待つ必要があるとの声も多い。「ドル高は小休止。政策の内容を見極めないと120円台への上昇は難しい」(同)との見方も出ていた。

今週は米国で12月中古住宅販売件数、同新築住宅販売件数、10─12月期国内総生産(GDP)、12月耐久財受注などの発表がある。これらが良好な内容となれば、米億利上げペースが加速するとの思惑からドル買いにつながりやすい。

中国は27日から2月2日まで春節(旧正月)の休暇となる。この間はアジア時間の参加者が少なくなるため、26日はポジション調整の動きが広がる可能性もある。

<ユーロは底堅さ意識>

ユーロ/ドルは、19日にドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁がハト派的な見解を示したことでいったん売られた。その後、持ち直しているが、上昇は調整が主体で、ユーロ買いの持続性は乏しいとの指摘がある。

半面、底堅さも意識されており、「トランプラリーが再開してドル買いの展開となっても、ユーロの下値は1.05ドル程度ではないか」(国内金融機関)との声があった。

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コラム:ドル安誘導で「不確実性」高まるトランプ経済政策

Peter Thal Larsen

[ダボス(スイス) 18日 ロイター BREAKINGVIEWS]
ドナルド・トランプ次期米大統領は遠からず、どの経済目標を切り捨てるか決断を迫られるかもしれない。

20日に大統領に就任するトランプ氏は、米国の貿易赤字を縮小すると同時に、法人税減税によって米国経済を押し上げたいと考えており、ここにきて、ドルが高過ぎるとも発言している。

しかし、こうした計画をうまく調整することは、長年にわたって確立されてきたタブーを破らなければ不可能だ。

大統領選におけるトランプ氏の発言から、理路整然とした一連の政策を見定めることは無理な話だ。投資家は、トランプ新政権と議会が法人税率を引き下げることにより経済を押し上げるとの結論を下した。国際通貨基金(IMF)もまた、今週に入り、2018年における米国経済の成長見通しを2.5%に引き上げている。

しかし、米国経済はすでに好調だ。過去1年の大半において、失業率は5%を下回っている。リスクと言えば、財政刺激策が賃金と物価の上昇へと波及し、米連邦準備理事会(FRB)が予想よりも早く利上げを行うことだ。ハト派のブレイナードFRB理事でさえ、そのような見方を強めている。

そのような利上げ期待は、一方でドル上昇を招いている。米大統領選でトランプ氏が勝利した後の2カ月で、ドルは、いくぶん押し戻されはしたが、主要通貨に対し6%超上昇した。ドル高は貿易赤字の拡大を招き、米企業に雇用を海外に移転する動機を与えかねない。この2つの問題こそ、まさにトランプ氏が解決すると約束していることではなかったか。

トランプ氏と同氏のアドバイザーたちはこの脅威に気づいた。ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、トランプ氏はドルが「高過ぎる」と発言している。賢明な決断は、減税規模を縮小し、インフラ投資と米国の長期的な潜在成長を押し上げることになるであろう教育に財政支出することだろう。

とはいうものの、トランプ氏が貿易赤字を関税で帳消しにしようとする危険性も残されている。そうなれば、世界的な貿易戦争が引き起こされるだろう。あるいは、FRBに利上げをしないよう政治的圧力をかける可能性もある。中央銀行の独立性をむしばみ、インフレを招くリスクが生じる。

どちらの場合も、長期的に見れば、米国経済は悪化するだろう。だがもしトランプ氏の経済チームが理性的であろうとするなら、まずは大胆なアイデアのいくつかを断念するよう、同氏を説得せねばなるまい。

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視点:強い米国の強いドルが復活へ

武者陵司 武者リサーチ代表

[東京 10日]
トランプ次期米政権が、サイバー空間で培われてきた自国産業の圧倒的優位性をフルに生かす「強いドル」政策を追求するならば、経済の独り勝ちと覇権強化に基づく「パックス・アメリカーナ」再現も夢ではないと、武者リサーチの武者陵司代表は指摘する。

また、その場合、最大の負け組は中国で、最大の受益国は日本となり、ドル円は年内に130円超、日経平均株価は2020年にかけて3万円台も期待できると予想する。

同氏の見解は以下の通り。

<米国際収支構造の大転換>

米国の圧倒的隆盛と中国の顕著な衰弱――。2017年は、米中の明暗がはっきりし始める1年となるだろう。トランプ次期米政権が「強い米国の強いドル」という正しい方向性を途中で見失わなければ、経済的・軍事的なプレゼンス再構築に基づく「パックス・アメリカーナ」再現も夢ではないと考える。

米国にとって、「強いドル」が今ほど国益にかなう時代は、変動相場制移行(ニクソン政権下の1973年)以来、なかったのではないか。米国の国際分業上のポジショニングは特にこの10年余りで大きく強化され、もはや「弱いドル」は必要ではなくなっている。

キーワードは、レーガン政権時代の1980年代に発見(商用利用が開始)された第7大陸(影も形も国境もないサイバー空間)だ。世界貿易の停滞を受けて、資本主義が限界を迎えたとの間違った悲観論が最近はびこっているが、この新大陸の発見とその後の目覚ましい成長が歴史上まれな大発展時代をもたらすのはむしろこれからだと思う。

インターネットが今や世界中で必須の生活基盤・経済資源となり、価値創造の最大の源泉となっている点に誰も異論はないだろう。そして、この新大陸におけるイノベーションの担い手(そして「口銭」を稼ぐインフラを牛耳っている主体)は圧倒的に米国企業だ。第7大陸の発展が、米国経済のファンダメンタルズを歴史的水準に押し上げているのは、空前の企業収益や過去最高値更新を続ける株価などを見れば明らかだ。

こうした視点で、米国の国際収支統計を眺めてみると、興味深いことに気付かされる。過去10年間(2005―15年)で米経常収支赤字は8067億ドル(対GDP比5.7%)から4630億ドル(同2.6%)へと大きく改善しているが、そのけん引役は金融・知的所有権料・ビジネスサービスなどのサービス収支(686億ドルから2622億ドルへ3.8倍)と、直接投資・証券投資などの第1次所得収支(676億ドルから1823億ドルへと2.7倍)なのだ。

他方、米貿易収支赤字はこの10年間、年7600―7800億ドル近辺でほぼ横ばい推移している。もし今後もサービス収支と第1次所得収支が過去10年間と同様の年率12.5%のペースで増加し、貿易収支が今の水準で推移すれば、米国はあと6年程度で経常収支黒字国に転換する計算となる(しかも、ドル高が進行すればさらに早まるかもしれない)。

米国から見て、「強いドル」のデメリットはもはや小さい。そもそも、他国と価格競争をしている品目が少ないからだ。この10年余りで、労働集約的な低付加価値品を他国から買い、独占的な高付加価値品やサービスを他国に売る(そしてサイバー空間に張り巡らせたインフラから「口銭」を稼ぐ)という経済に転換したためである。こうした産業構造では、自国通貨高が有利だ。海外利益のドル換算額減少リスクを指摘する声もあろうが、それは基本的には値上げで対処可能だ。

また、トランプ次期米大統領は、保護貿易的な言動からドル安論者と見られがちだが、それは彼の主張するポリシーミックス(財政出動・金融引き締め・軍拡)とは整合的ではない。結局、ドル高を容認せざるを得ないだろう。

ちなみに、トランプ氏とよく似たポリシーミックスだったレーガン政権もドル高コストに耐えられずに2期目の初年(1985年)にプラザ合意でドル安誘導に転じたではないかとの意見をよく聞くが、製造業中心だった当時とは米国の産業構造は決定的に違う。

現在は、前述の通りサイバー空間の高付加価値分野が米国企業のグローバル独占によって不完全競争状態になっており、ドル高でも米国の対外赤字が増加しにくい。ドル円は今や120円台後半どころか、130円台すら年内に試す可能性があると私はみている。

<中国で懸念されるドル高の「負の連鎖」>

ただし、ドル高のデメリットが海外において現われる点には注意が必要だ。米国の経常収支が改善している中でのドル高は、国際的なドル調達難をもたらすだろう。懸念されるのはドル負債を多く抱え、経済ファンダメンタルズの弱い国々だ。

そうした国々は自国通貨を防衛するために金融引き締めを余儀なくされると同時に、それによって生じる国内経済の困難に対処することも迫られる。結局、どの国も拡張的な財政政策に打って出るしかなくなる可能性が高い。

特に大きな困難に直面すると思われるのは中国だ。まずドル高・米金利上昇によって中国からの資本流出圧力が強まるのは必至だ。また、中国は外貨準備高(約3兆ドル)を上回る4兆ドル超もの巨額対外負債を負っている。人民元の下落はその負担増を招くことになる。

ならば人民元の下落を抑制すれば良いという簡単な話ではない。通貨防衛をすれば、金融のタイト化で不動産バブルの崩壊リスクを高め、国内金融危機を引き起こす恐れがある。また、アジアの競合諸国に比して割高になっている中国の人件費を一段と高め、製品の競争力をそぐことになる。

結局、大幅な通貨切り下げも切り上げもできない中で、現状程度の中途半端に緩やかな元安政策(言い換えれば実力以上の通貨高維持政策)を継続せざるを得ないのではないか。

では、それで中国の経済危機は回避されるのだろうか。確かに、同国の財政は比較的健全なので、国内景気テコ入れのために財政出動を繰り返せば、当面は目立った危機が起きない可能性は高い。だが、過剰投資・過剰債務の上に屋上屋を重ねていくような政策の末には、やはり破局が待ち構えているだろう。ハードランディングとならずとも、緩慢な衰退は必至だ。

しかも、中国の困難は今後、対中貿易摩擦という方向からもやってくる。周知の通り、米国では、中国の不公正な貿易通商慣行(知的所有権の侵害、サイバー空間での不正アクセス、国内市場の極端な閉鎖性、政府によるあからさまな自国企業優遇、外資投資規制を維持しながらの海外での積極企業買収など)に対する批判が強まっている。

「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げるトランプ次期米政権下で、米国の対外貿易赤字の5割を占める中国が貿易摩擦の主な標的となるのは火を見るより明らかだ。

むろん、中国の輸入は政府が実力以上の内需を維持しようと図るため減り難いが、輸出は実力以上の通貨高と貿易摩擦により一段と困難になるだろう。貿易黒字の減少、純輸出の減少は中国経済のもう1つの成長制約要因となる可能性が高い。

<トランプノミクスとアベノミクスの相乗効果>

他方、「強い米国の強いドル」誕生で最大の受益国となりそうなのが、日本だ。円ベースでの輸出単価上昇により円安が企業収益の大きな押し上げ要因になることは言うまでもないが、より大きいのは対外資産の増価である。

日本の対外純資産(資産と負債の差額)は約2.8兆ドルと世界最大級であり、ドル高となれば、そっくり円ベースで増価する。10%のドル高で2800億ドルの差益が発生する計算であり、海外直接投資・証券投資の果実は日本経済を大きく支えるだろう。

また、そうした受益が見込める中で、アベノミクスが財政金融総動員のリフレ政策を継続するならば、今後は労働需給による賃上げに加え、原油価格の下落一巡と円安加速により、物価に強い上昇圧力がかかる。実質金利の低下は、国内のリスク資産投資を大きく鼓舞するはずだ。

日経平均株価も、トランプノミクスとアベノミクスが相乗効果を発揮するベストシナリオでは、2020年にかけて3万円台を視野に入れるだろう。

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