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コラム:日米金利差拡大で円安再始動は本当か

亀岡裕次 大和証券 チーフ為替アナリスト

[東京 24日]
「2017年は、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを進めていく中で日米金利差が拡大し、ドル円が上昇」というシナリオが、円安派の主張で目立つが、これは実現するのだろうか。ここでは、その実現性について考えてみたい。

米国の長期金利が上昇してきた主因は、インフレ期待の高まりにある。市場のインフレ期待を示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は昨年11月以降に上昇が進み、今年1月には5年物BEIが2%近くまで上昇した。

トランプ大統領の当選後に米景気拡大期待が高まったこと、石油輸出国機構(OPEC)の協調減産で原油価格が上昇したこと、1月にドル実効為替が反落したこと、米インフレ率が上昇したことなどが、インフレ期待を高める方向に作用した。FRBが3月に追加利上げした理由もインフレ抑制にあるとみられる。

<米インフレ期待上昇は望み薄>

ただし、BEIは2月以降、頭打ちとなっている。原油などの商品市況が反落したこと、ドル実効為替の下落が一服したことが原因とみられる。米消費者物価(CPI)の前年比が2月に2.7%まで高まる一方で、エネルギーを除くCPIの前年比は2%未満で安定しており、インフレの主因はエネルギー価格の上昇にあることがわかる。

そして、米原油生産が増え続ける中で原油在庫の増加が目立ち始めたため、需給緩和見通しから原油価格が下落し始めた。そのことにより、インフレ率がピークアウトする可能性が出てきた。

さかのぼると、WTI原油先物価格(中心限月)は昨年2月にかけて下落し、1バレル=27ドル程度で底打ちした後、6月にかけて51ドル程度まで上昇した。これに対し、今年は1―2月に50―55ドルで推移した後、足元で47ドル台まで下落している。今後しばらくは原油価格が安定的に推移した場合でも、その前年比は2月をピークに低下していくことになる(原油価格が下落すれば、なおさらだ)。

しかも、ドル実効為替も昨年2―6月に下落したので、安定的に推移した場合、その前年比は上昇しやすい。つまり、前年比でみると、原油安・ドル高の方向に振れやすいので、インフレ率は低下しやすいのだ。

また、FRBがインフレ期待の参考指標にしているとみられる米ミシガン大学の消費者期待インフレ率は低下傾向にある。3月に、向こう5年間の期待インフレ率は2.2%と1979年の統計開始以来最低となり、1年間の期待インフレ率は2.4%と昨年12月の2.2%(2010年9月以来の低さ)に次ぐ低水準となった。

近年、消費者のインフレ期待が低下しているのは、消費者の米国景気についての現況判断が改善しても先行き期待が伸び悩んでいることと関係がありそうだ。市場のインフレ期待がさらに上昇していく可能性は低いように考えられる。

<米長期金利の上昇は進みにくい>

米国の実質金利はトランプ大統領当選後の昨年11―12月は上昇したものの、その後は反落した。米経済成長への期待が頭打ちとなっていることを反映しているのではないか。

ミシガン大学の消費者信頼感指数のうち、現況指数が3月にかけて上昇する一方で、先行きの期待指数は昨年11―12月に上昇した後に反落している。今回の景気拡大が93カ月に達し、過去3回の平均である95カ月に迫るなど長期化しているせいか、好景気がさらに続くという期待は盛り上がっていないようだ。

3月は雇用統計など強い米経済指標や米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーのタカ派的発言から利上げ期待が急浮上し、FOMCにかけては実質金利が上昇したものの、メンバーの利上げ予想ペースが加速していないとわかると実質金利は反落した。

米国は完全雇用に近づき、賃金上昇率が次第に高まりつつあるとはいえ、コア物価のインフレ率は落ち着いている。シカゴ連銀発表の全米経済活動指数(3カ月移動平均値)は2月に0.25まで上昇したが、経験則として持続的なインフレ率上昇が始まりやすいとされる0.7には達していない。もっと経済成長が高まらないと、コアインフレ率は上昇しにくいだろう。

2月は平年に比べ3度以上も平均気温が高く経済活動が活発化したが、3月は東海岸で大雪が降るなどの悪天候に見舞われた。しかも、株価は月初をピークに下落傾向をたどり、トランプ政策期待の後退から株安が進みつつある。米国景気の減速リスクが高まりつつあり、株安と景気減速が相互作用を及ぼし合う負の循環に入る可能性もある。成長期待(を反映する実質金利)とインフレ期待の両面から、米長期金利の上昇は進みにくいだろう。

<為替は日米金利差と逆方向に動くケースも多い>

そもそも、日米金利差が拡大するとドル円は上昇すると言えるのか。1990年代以降で日米10年国債金利差が拡大した9回の局面について振り返る。日米金利差拡大でドル円が上昇したのは、2001―02年と16年の2回だ。

16年つまり昨年はトランプ大統領当選後、大型減税などの政策期待を背景に米株価・金利とともにドル円が上昇した。一方、01―02年は日米金利差拡大だけでなく、日銀の量的緩和導入(日本のマネタリーベース増加)も円安に寄与した。

日米金利差拡大とドル円上昇の相関が低いのが、96年、05―06年、09年、13年の4回だ。96年は金利差拡大でドル円は上昇したが、金利差が縮小に転じてもドル円は上昇を続けた。95年4月の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)での「為替の秩序ある反転が望ましい」との声明とドル買い協調介入を受けてドル円上昇が続いていたのであり、金利差拡大が主因ではなかった。

05年は米本国投資法による米国への資金還流でドル円が上昇、06年は反動でドル円が下落したが、金利差とドル円の相関は低かった。09年は金利差拡大を背景に短期的にドル円が上昇後、日本の貿易収支改善と米国の貿易収支悪化を背景にドル円は下落に転じた。13年は5月にかけて日銀の量的緩和を背景にドル円が急上昇し、日米金利差が拡大した年後半はドル円上昇が鈍った。

日米金利差拡大の一方でドル円が下落したのが、94年、99年、10―11年の3回だ。94年は金利差が大幅に拡大したにもかかわらず、当時のクリントン米政権からの円高圧力を背景にドル円が下落した。99年は金融危機から脱した日本経済の回復が円高に働いた(当時は景気回復・円高)。10―11年は金利差が明確に拡大したものの、東日本大震災によるリスクオフが円高に作用したことなどから、ドル円はわずかに下落した。

つまり、日米金利差が拡大してもドル円が上昇するとは限らない。為替が他の要因に左右されて日米金利差と逆方向に動くケースも多いのだ。今後は、トランプ政権の保護主義が円高・ドル安圧力となる可能性がある。米国が円安や日本の貿易黒字への懸念を示す口先介入だけでなく、日本に金融緩和縮小圧力をかけることも考えられる。

米国の長期金利が明確に上昇するような状況でないと日本の長期金利も上昇しにくく、日銀が国債買い入れを縮小しやすいはずだ。日米金利差が縮小する可能性は十分にあり、たとえ日米金利差がわずかに拡大しても米保護主義による円高・ドル安によって打ち消されやすいだろう。いずれにせよ、日米金利差拡大によるドル円上昇のシナリオは描きにくい。

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